防災庁発足で変わる物流業界の役割
「運ぶ」から「備え、保管し、届ける」へ。防災物流を持続可能な事業に

■ 防災庁の発足と事前防災の強化
2026年11月2日、防災庁が発足しました。近年、地震や豪雨などの自然災害が頻発し、南海トラフ巨大地震などの大規模災害への備えが急務となる中、政府は災害発生後の対応だけでなく、平時からの備えを重視する「事前防災」の強化を進めています。
その中で、物流業界に期待される役割も大きく変わろうとしています。これまで災害物流といえば、被災地への緊急物資輸送が中心でした。しかし、今後は物資を「運ぶ」だけでなく、平時から「備え、保管し、管理する」機能が一層重要になります。
■ 拡充が進む国の災害備蓄
政府は、大規模災害発生時に必要な物資を迅速に供給するため、全国各地への分散備蓄を進めています。2026年10月時点で国の備蓄拠点は10地域11か所に拡大し、今後も拠点の追加や備蓄品目・数量の充実が検討されています。
国が重点的に備蓄するのは、段ボールベッド、避難所用パーティション、簡易トイレ、キッチン資機材など、災害発生後に大量調達することが難しい物資です。一方、食料や飲料水などは自治体の備蓄や民間からの調達を組み合わせて確保します。
これらの物資は、単に倉庫に保管しておけばよいわけではありません。品目・数量・保管場所の把握、品質管理、定期点検、入出庫管理に加え、災害発生時には速やかに搬出できる体制が必要です。
つまり、備蓄拠点には物流センターとしての機能が求められるのです。
■ 能登半島地震が示した物流の重要性
2024年の能登半島地震では、道路の寸断などによる輸送の困難さに加え、被災地の物資集積拠点における荷役設備や物流専門人材の不足が課題となりました。
全国から支援物資が集まっても、荷受け、仕分け、在庫管理、避難所別の配送計画が適切に行われなければ、必要とする人々の手元には届きません。
国土交通省の2024年度調査では、支援物資の輸送・保管や物流専門家の派遣に関する物流事業者との災害協定を締結していない市区町村が約38%に上りました。
こうした課題を解決するには、トラックによる輸送能力だけでなく、倉庫業者や3PL事業者が持つ在庫管理、荷役、配送管理などの専門的なノウハウを活用する必要があります。
また、国は災害時に被災自治体からの要請を待たずに物資を送り出す「プッシュ型支援」を実施しています。こうした仕組みを円滑に機能させるためにも、平時から物流事業者との連携体制を構築しておくことが不可欠です。
■ 備蓄物流は新たな事業機会となるか
国や自治体による備蓄の拡充は、物流業界に新たな事業機会をもたらす可能性があります。
実際に、福岡市では2026年度に災害用備蓄物資の保管管理業務を民間委託するため、約5,227万円を上限とする公募が行われました。また、京都市でも備蓄倉庫の物流マネジメント導入業務について、2,410万円を上限とする公募が行われています。
自治体が物流事業者に求めているのは、単なる倉庫スペースの提供ではありません。保管、在庫管理、品質管理、入出庫、緊急時の配送までを含めた総合的な物流機能です。
一方、国の備蓄拠点では、民間団体が倉庫スペースを無償提供している事例もあります。2026年4月の国会答弁では、SGH防災サポート財団が協力する備蓄拠点について、平時の保管場所は無償で提供され、災害時の物資輸送には国が実費を負担する仕組みが説明されました。
このことは、国家備蓄の拡充が必ずしも物流事業者の収益拡大に直結するわけではないことを示しています。
■ 平時の備蓄管理に適正な対価を
物流事業者が備蓄業務を担うには、倉庫スペースの確保に加え、在庫管理、設備維持、定期点検、緊急時の人員確保など、継続的な費用が発生します。
特に中小物流事業者にとって、長期間の無償保管や緊急対応の負担を引き受けることは容易ではありません。
災害時の輸送費だけでなく、平時の保管料、在庫管理料、緊急対応の待機費用、定期的な訓練費用などを適正に評価する仕組みが必要です。
例えば、平時には保管・管理業務に対して一定の固定費を支払い、物資の入替時には荷役費用を、災害発生時には緊急出動や輸送に応じた追加費用を支払う包括契約が考えられます。
また、物流事業者自身が被災する可能性もあります。災害対応を求めるのであれば、非常用電源、通信設備、代替拠点などのBCP対策への支援も欠かせません。
国土交通省では、物流拠点の非常用電源設備や官民連携による物資輸送訓練への補助制度を設けています。今後はこうした支援に加え、備蓄物流を継続的な事業として成立させるための制度整備が期待されます。
■ 防災物流を社会貢献から持続可能な事業へ
防災庁の発足は、物流業界にとって災害対応の役割を見直す重要な契機となります。
物流事業者も、自社のBCPを整備するだけでなく、保有する倉庫、車両、人材、物流管理システムを地域防災にどのように活用できるか、自治体との協定や業務受託を含めて検討することが求められます。
一方、国や自治体には、物流業界の社会貢献意識に依存するのではなく、平時から必要な物流機能を維持するための適正な費用負担と、継続的な官民連携の仕組みを整えることが期待されます。
災害が起きてから物流を確保するのではなく、災害が起きる前から物流を確保しておく。そのための費用を社会全体でどう負担するか。
防災庁の発足を機に、防災物流を一時的な社会貢献活動から、持続可能な公共的事業へと発展させることが重要です。




コメント